
資本金の額が株式会社に与える影響
資本金の額は、株式会社の設立時に出資額に応じて設定し、その金額は登記されます。
設立後も、法定の手続きに従って、その金額を増額(増資)・減額(減資)することができますが、資本金の額は様々な影響を株式会社に与えます。
ここでは、資本金の額が株式会社に与える影響について、その一部を紹介いたしますので、株式会社設立や増資・減資を検討される方は是非ご参考ください。
資本金の額と会社法の財源規制
株式会社の資本金の額は、純資産額がその金額を上回る場合でなければ、剰余金の配当や自己株式の有償取得(株式会社が自社の株式を取得)することができないため、株式会社から、剰余金の配当や自己株式の有償取得による財産の流出を一定程度制限する重要な数値になります。
資本金の額は、株式会社から財産流出を制限する役割を果たすため、その金額が大きいほど対外的に信用力があると一般的に判断されます。
ちなみに、剰余金の配当や自己株式の有償取得は、「分配可能額」という金額の範囲内でしかできず、この分配可能額の算定にあたり、次のとおり資本金の額が大きく影響しています。
分配可能額=
剰余金(=資産+自己株式−負債−資本金−準備金)
+自己株処分差益
+資本金減少差益
+準備金減少差益
−自己株式消却額
−期末日後の剰余金から資本金への振替額
−期末日後の分配額の10分の1
−自己株式
−のれん等調整額関係の額
−マイナスのその他有価証券評価差額金
−マイナスの土地再評価差額金
−資本金・資本準備金・新株予約権・評価換算差額の合計額
分配可能額は、資本金の額が大きい程少なくなり、少ないほど大きくなります。
資本金の額と許認可
株式会社の事業の中には、所轄官庁の許認可を受けなければならないものが多数あります。
許認可を受けるために株式会社に要求される要件や目安は各事業ごとに異なりますが、資本金の額がその要件または目安の1つとなっている許認可は少なくありません。
そのため、許認可が必要な事業を行う株式会社を設立する際や、増資・減資をおこなう際には、資本金の額をどのように設定するかを注意する必要があります。
許認可が必要な事業には、紹介する他にも様々なものがあります。
また、資本金の額は各種許認可を受けるための要件や目安の1つにすぎないものがほとんどです。具体的な要件等については所轄官庁または行政書士にご相談しましょう。
資本金の額 | 許認可の例 |
300万円以上 | 第三種旅行業 |
500万円以上 | 一般建設業(自己資本の額)、貸金業、有料職業紹介 |
700万円以上 | 第二種旅行業 |
1,000万円以上 | 一般労働者派遣業、第2種金融商品取引業 |
2,000万円以上 | 特定建設業 |
3,000万円以上 | 第一種旅行業 |
5,000万円以上 | 第1種金融商品取引業、投資運用業 |
資本金の額と税務
法人税では、会社の期末資本金の額の大きさにより交際費の損金算入できる金額が異なったり、法人住民税の均等割税額にも差が出たりします。
ここでは、資本金の大小で納税額に影響の出る項目のうち特に影響の大きい、交際費の定額控除限度額の計算、中小法人に対する種々の特典について紹介しますが、許認可の取得や取引関係上などで特に資本金を大きくする必要のない株式会社については、資本金の額を1,000万円未満にすることで、より多くの特典を得れることがわかります。
税務上の観点から、具体的に資本金の額をいくらに設定するかを慎重に検討される場合は、税理士にご相談しましょう。
資本金1,000万円未満の特典
消費税の納税義務の免除
消費税は、基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の株式会社は、その課税期間の納税義務が免除されます。また、新たに設立した株式会社の場合には、基準期間がないため、その売上げもなく、原則として、免税事業者になります。
ただし、設立時の資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である株式会社については、免税事業者にはならないという決まりもあるため、新たに株式会社を設立する場合は、資本金の額を1,000万円未満にすることで消費税の納税義務が免除されます。
資本金1,000万円以下、1億円未満または以下の会社の特典
* 定額控除限度額以下の部分についてもその20%は損金に算入されません。
期末資本金額 | 交際費の定額控除限度額 |
1,000万円以下 | 年400万円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 年300万円 |
5,000万円超 | 0円 |
資本金+資本準備金 | 従業者数 | 東京都特別区の都民税 | 市長村民税の標準均等割税額 | 道府県民税の標準均等割税額 |
1,000万円以下 | 50人以下 | 年額7万円 | 年額5万円 | 年額2万円 |
50人超 | 年額14万円 | 年額12万円 | ||
1,000万円超1億円以下 | 50人以下 | 年額18万円 | 年額13万円 | 年額5万円 |
50人超 | 年額20万円 | 年額15万円 | ||
1億円超10億円以下 | 50人以下 | 年額29万円 | 年額16万円 | 年額13万円 |
50人超 | 年額53万円 | 年額40万円 |
役員変更登記の登録免許税
株式会社の役員変更登記にかかる登録免許税は、原則3万円を登記申請時に納税する必要がありますが、資本金の額が1億円未満であれば1万円で足ります。
資本金1億円以下の会社に認められる法人税の特典
法人税の軽減税率の適用
法人税率は原則として30%ですが、資本金1億円以下の法人については年間所得800万円以下の部分につき22%に軽減されてます。
少額減価償却資産の損金算入
資本金の額又は出資金の額が1億円以下である場合、青色申告を条件に、減価償却すべき資産となる取得価額の基準が30万円まで認められます(原則10万円)。つまり、30万円未満の資産についてはその事業年度中に全額損金算入が認められます(ただし、事業年度の取得価額 300万円が上限 で、これを超える部分は対象となりません )。
その他中小企業者に関する特例
一定の要件を満たす資本金1億円以下の中小企業者には特別償却・税額控除などさまざまな税の特典が設けられています。
資本金の額とその他
資本金の額は、上記で紹介した以外にも様々な法令等で株式会社に影響を与えます。
例えば、下請法や独占禁止法、経営承継円滑化法、投資経営ビザ取得のための目安…その他様々です。
資本金の額を設定・減資・増資する際に、全ての法令をチェックすることは実務上困難としても、各会社の事情により大きな影響を与える法令ついては注意が必要です。
