
役員(取締役・監査役)の任期の確認
株式会社の役員(取締役・監査役)には任期があります。
大企業・中小企業・零細企業等の区別なく、全ての株式会社の役員には例外なく任期があります。
役員の任期が満了した場合、任期満了による退任の登記申請が必要になりますし、任期満了により欠員が出てしまう場合は、新たに役員を選任するか、引き続き同一人物を役員として重任するか、いずれにしても株主総会で役員選任手続きを経て、役員変更登記の申請が必要です。
つまり、役員の任期が満了すると、必ず役員変更の登記申請が必要になるのですが、当事務所のご依頼者やご相談者の中でも、ご自身の会社の取締役の具体的な任期満了日が分からなかったり、忘れてしまっている方が少なくありません。
役員選任手続きや登記申請を怠ると、対外的なイメージもよくありませんし、融資や許認可を受けれなかったり、裁判所から過料(反則金のようなもの)の制裁を受けることもあります。
是非、このコラムを読んで頂き、御社の役員の任期が満了していないか、任期満了日はいつになるのか等の確認にお役立てください。
任期の計算
会社法では、取締役と監査役の任期をそれぞれ次のように定めています。
選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結まで(会社法331条第1項)
選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結まで(会社法336条第1項)
非公開会社(全ての株式の譲渡を制限している会社)に限り、定款に定めることで、取締役・監査役の任期を「選任後10年以内に終了する〜」まで伸長することができます(会社法336条第2項)。
さらに取締役の任期は、短縮することもできます(会社法331条第1項)。監査役は、取締役と異なり短縮することはできません。
役員の任期は、以上ような定め方をするので、単純にピッタリ2年や4年、10年といった期間ではありません(定款でピッタリと*年と定めることもできます)。役員の任期を計算するには、次の4つの項目を確認して計算する必要があります。
(2) 事業年度の末日
(3) 役員の選任日
(4) 選任日以降の各事業年度に関する定時株主総会の開催日
株式会社田中製作所の例
役員の任期の計算をより具体的に解説するために、株式会社田中製作所(架空の会社です)の取締役A、B、Cさんの任期を例にあげてみます。
取締役の任期:
選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結まで
事業年度:4月1日から翌年3月31日まで
任期の計算するための前提知識として、株式会社は、事業年度の末日から原則2カ月以内に、その事業年度に関する定時株主総会を開催する必要があることをまず頭にいれましょう。
株式会社田中製作所では、平成19年(平成19年4月1日から平成20年3月31まで)の事業年度に関する定時株主総会を平成20年5月25日に開催しました。
取締役Aさんの任期

Aさんの任期の計算にあたっては、まず役員の任期の定めである「選任後2年以内…」を、「平成22年5月25日以内…」と読みかえます。
とすると「平成22年5月25日以内に終了する事業年度…」とは、上の図のとおり、平成20年、平成21年の2つの事業年度になります。
そのうちの「最終のもの」が任期の基準となるため、Aさんの場合、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とは、平成21年の事業年度であることが分かります。
よって、Aさんの任期は「21年の事業年度に関する定時株主総会の終結まで」となります。
仮に、株式会社田中製作所が、21年の事業年度に関する定時株主総会を、その事業年度の末日である平成22年3月31日から2カ月以内の平成22年5月30日に開催すれば、その定時株主総会の終結時にAさんの任期は満了します。
取締役Bさんの任期

Bさんの場合も、まず役員の任期の定めである「選任後2年以内…」を、「平成22年3月1日以内…」と読みかえます。
「平成22年3月1日以内に終了する事業年度…」は、上の図のとおり平成20年の事業年度のみになりますので、「最終のもの」も、当然平成20年の事業年度になります。
Bさんの場合、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とは、平成20年の事業年度であることが分かります。
よって、Bさんの任期は「20年の事業年度に関する定時株主総会の終結まで」となります。
仮に、株式会社田中製作所が、20年の事業年度に関する定時株主総会を、その事業年度の末日である平成21年3月31日から2カ月以内の平成21年5月20日に開催すれば、その定時株主総会の終結時にBさんの任期は満了します。
取締役Cさんの任期

Cさんの場合も、まず役員の任期の定めである「選任後2年以内…」を、「平成22年7月1日以内…」と読みかえます。
「平成22年7月1日以内に終了する事業年度…」は、上の図のとおり、平成20年、平成21年の2つの事業年度になり、「最終のもの」が平成21年の事業年度になるため、Cさんの場合、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とは、平成21年の事業年度であることが分かります。
よって、Cさんの任期は「21年の事業年度に関する定時株主総会の終結まで」となります。
仮に、株式会社田中製作所が、21年の事業年度に関する定時株主総会を、その事業年度の末日である平成22年3月31日から2カ月以内の平成22年5月30日に開催すれば、その定時株主総会の終結時にCさんの任期は満了します。
まとめ
以上のような考え方・計算方法で自社の取締役・監査役の任期を確認してみましょう。
補欠または増員の役員の任期
複数の役員が、それぞれ別々の株主総会で選任され、任期満了時期もそれぞれ別々になる場合、各役員の任期満了毎に役員の退任登記を申請したり、改めて株主総会を開催して役員の選任手続き経るのは非常に面倒なものですし、登記手続きのコストもかさみます。
そこで、役員の任期を揃えるために、定款で次のように役員の任期を短縮することができます。また、役員の任期を確認する際には、既に定款に以下のような定めがないかをあわせて確認しましょう。
1 取締役の任期は,選任後*年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時までとする。
2 補欠又は増員により選任された取締役の任期は,前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。
1 取締役の任期は,選任後*年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時までとする。
2 補欠により選任された監査役の任期は,その退任した監査役の任期の残存期間と同一とする。
監査役の場合は、補欠で選任された場合の任期の短縮しか認められないので、ご注意ください(会社法334条第3項)。
● 補欠の役員
補欠で選任された役員とは、役員の誰かが任期途中に辞任や死亡によって退任した場合に、その代わりに選ばれた役員のことをいいます。
補欠の役員は、任期途中で退任した前任者の任期の残存期間で任期が満了するため、前任者の任期が、他の役員の任期と揃っていた場合、補欠の役員の任期を、他の役員の任期と揃えることができます。
● 増員の役員
増員で選任された役員とは、追加で選ばれた役員のことをいいます。
増員で選任された役員は、在任中の他の役員の任期の残存期間で任期が満了するため、増員で選任された役員の任期を、他の役員の任期と揃えることができます。
その他、役員の任期が満了する場合
以上で解説した以外に、会社法では、会社が次のような定款変更をした場合にも、役員の任期が満了することを定めているので注意が必要です。
定款変更により取締役の任期が満了する場合
● 委員会を置く旨の定款の変更をした時
株式会社は、委員会という機関を置く会社と、置かない会社の大きく2つに分類することができます。
実際には株式会社のほとんどは委員会を置かない会社ですが、委員会を置く会社と置かない会社の取締役の職務内容は大きく変わるため、委員会を置かない会社が委員会を置く定款変更をした場合、その定款変更の効力が生じた時点で、取締役の任期が満了します。
● 委員会を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした時
上のケースとは逆に、委員会を置いていた会社が委員会を廃止した場合、委員会の廃止の定款変更の効力が生じた時点で、取締役の任期が満了します。
● その発行する株式の全部の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更(委員会設置会社がするものを除く。)した時
株式会社は、その発行する株式の内容から大きく2つに分類すると、全ての株式の譲渡を制限している非公開会社と、そうでない公開会社に分類することができます。
実際には上場企業を除く大多数の会社が非公開会社ですが、非公開会社は身内やグループ間等の信頼関係のある者のみを株主とする会社なので、公開会社とは会社の性質が大きく違ってきます。
そのため、非公開会社が公開会社となる定款変更をした場合、その定款変更の効力が生じた時点で、取締役の任期が満了します。
定款変更により監査役の任期が満了する場合
● 監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした時
取締役会を置かない株式会社は、原則監査役を置く必要はありませんが、定款で監査役を置くことを定めることができます。
監査役を置いていた会社が、監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更した場合、その定款変更の効力が生じた時点で、監査役の任期が満了します。
● 委員会を置く旨の定款の変更をした時
委員会を置く株式会社では、監査役の仕事を監査委員(会)と呼ばれる取締役達が行うため、監査役を置くことができません。
従って、委員会を置く旨の定款の変更した場合、その定款変更の効力が生じた時点で、監査役の任期が満了します。
● 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした時
監査役の職務には、取締役の職務執行が適法に行われているかチェックする業務監査と、取締役が株主総会に提出する会計に関する議案・書類等をチェックする会計監査の2つがあります。
非公開会社では、定款で監査役の職務を会計監査に限定することができますが、監査役の職務を会計監査に限定している会社が、限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更した場合、その定款変更の効力が生じた時点で、監査役の任期が満了します。
● その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした時
非公開会社は身内やグループ間の信頼関係のある者のみを株主とする会社なので、公開会社とは会社の性質が大きく違ってきます。
そのため、取締役の場合と同様、非公開会社が公開会社となる定款変更をした場合、その定款変更の効力が生じた時点で、監査役の任期が満了します。
